「土方さん。私、結婚する事になりました」
「・・は?」
咥えた煙草は口から落ちそうになった。急に話があると聞けば、こんな戯言を言うなんて。
今日のは熱でもあるのだろうか。髪をかき溜息をつく。
「隣町のお偉いさんでして。ええ、とても優しくて一途な方なんです」
目は真剣なのに口元だけ歪めて話し出した。それがとても不思議やらなんやらでの細くて短いつり目を凝視してしまう。
怪訝そうな顔をしてもは淡々と言葉を続けた。とくに俺だって、話の邪魔をしないで黙っていた。
「つい先日ですね、嫁ぐところがない私を哀れに思った母が紹介して下さったんです。
簡単に言えば見合いですね。一度お会いしたのですが、あちらの方が非常に私を気に入って下さったようなんです。
そしたらあっという間なんです。式の日だの、家の事だの。全て話したら日が暮れてしまいますかね」
初めてそこで静かに笑ったが、持っていた扇子で口元を隠してしまった。
「結局何が言いたいかと言いますと、今週いっぱいで此処を出て行く事になりましたの。
本当は準備をしろと母や姑が言っていたのですが、どうしても土方さんだけにはと思いまして」
あ、近藤さんにも話はしてきましたが。と付け足して苦笑いをした。
急な事で何を言ってやっていいのか分からず、まずは頭の中の整理整頓をする事にした。
が此処を出て行く?結婚?なんて現実味の無い言葉だろう。
「ねえ、土方さん。そんな驚いた顔をしないで何か言ってやって下さいませ。
どうせもう二度と会えないのでしょうから。土方さん、土方さん。私、どうしたら良いのでしょうか」
の目が歪んだ。涙を流しても真っ直ぐと俺を見つめている。
そしてその視線を俺は何故か避けたくなって、俯いた。
「土方さんなら、行くなって。行かせないって。言って下さると思っていたの。ふふ、甘い考えですね」
「・・」
「土方さん。凄く楽しかったです。幸せでした。絶対に私は貴方を忘れたりなんかしません。
毎日毎日夫となる人が横に居ても、私は貴方を思い出して笑っています。本当にありがとう御座いました、さようなら」
俺が何か言おうとしたら、は少しだけ早口になって全て言い切ると部屋から出て行ってしまった。
言ってやりたい言葉なんて本当は無かったし考えてもいなかった。小さく名前を呼ぶ事しか出来なかった。
だからを追いかける事が出来なかった。体が動かなかった。すぐにの足音は聞こえなくなっていた。
何かを言ってやらないといけないと思った。二度と会えない?そんな馬鹿な話があるかと心の中で呟いていた。
何故泣く必要があるのだ。此処が愛おしいのは分かる。だが、親が連れてきてくれたお偉いさんなんだ。
何かがあっても、ちゃんとした優遇は与えてもらえるじゃないか。それが幸せなんだ。それが嬉しい事じゃないのだろうか。
部屋で寝そべる。天井を見つめていると、視界がぼやけてきた。耳にこびり付いたの声が鬱陶しく感じた。
白雪姫と小人の恋
幸いな事に俺は叶い方を知らない。